最高裁判所第二小法廷 昭和25年(オ)27号 判決
上告人(原告) 佐々木賢慈 外二名
被上告人(被告) 西三川村選挙管理委員会委員長
一、主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人等の負担とする。
二、理 由
上告人等の上告理由第一点について。
甲第一号証(選挙人名簿)によれば上告人等の住所は椿尾柏平としてある、ところが被上告人は原審において上告人等の住所は田切須字柏ケ平にあると主張しているのである、論旨は被上告人は上告人等の住所は椿尾にあると主張したというが、かかる主張をした事実は認められない從つて原判決が被上告人の右主張を認めた結果選挙人名簿の右住所の記載は誤りであることになる、しかし上告人等が本訴によつて名簿の修正を求めたのは住所の修正のためではなく同居の親族でないから修正してくれと云うのであるから原審が上告人等が同居の親族であつたか否やの爭点について判断し選挙人名簿と異なる住所を認定したからといつて事実に基かざる認定であるということはできない、論旨は理由なきものである。
同第二点について。
しかし被上告人は原審において上告人等の住所が椿尾にあるとは主張しなかつたのであり原判決は上告人等の生活の本拠が田切須にあると判断しているのであつて何等所論のような審理不盡の違法はない、論旨は理由がない。
同第三点について。
しかし原判決の採用した証拠を綜合すれば原判示の事実を認定することができるのであるから所論は原審の專権に属する証拠の取捨判断及び事実の認定を非難するに過ぎないもので上告適法の理由とならない。
同第四点について。
しかし原判決は証拠によつて「家計は依然原告賢慈が主管していたのであつて同人は睦雄等と共に同人等所有名義の農地を耕作しその全收穫の内から供出をなしその農業経営による收益により主として原告等の生計を共にしていたこと」を認めたのであつて、右の判示は上告人等三名が世帶を同一にしていたことを認定しているにほかならない。右の事実が認められる以上残收入をどのように分配し又爾余の收入があつたとしても、上告人等三名が生計を共にしていたことを認めるのに少しも支障はないのであつて、從つて原判決がこの点について判断を示さなくても所論のような理由不備はない。論旨は理由がない。
よつて民訴第四〇一條第九五條第八九條により主文のとおり判決する。
右は裁判官全員一致の意見である。
(裁判官 霜山精一 小谷勝重 藤田八郎)
上告人等の上告理由
第一点 原審判決は事実に基かざる認定の不法がある。
本件の爭点は上告人等は昭和廿四年六月廿日現在に於いて夫々別個に住所を有し別居の別世帶であると主張するに対し
被上告人は世帶主を上告人佐々木賢慈(該住所は新潟縣佐渡郡西三川村大字椿尾字柏平)上告人佐々木睦雄同佐々木正枝其他二人を同一世帶内と主張するにある(上告人等が親子兄妹の関係であることに爭はない)。
然るに原審判決が世帶主賢慈が同村大字田切須字柏ケ平百参拾参番地に睦雄正枝等と同居居住をなせりと事実認定をなし
被上告人の主張(賢慈が睦雄正枝等と椿尾字柏平に同居居住)を是認しているのは事実に基かざる不法判示である。「註」椿尾柏平と田切須柏ケ平との両地は二部落(西三川高崎)を中央にはさみ約一里半を隔てる距離にあつて一は(柏平)カシワダイラと呼び他(柏ケ平)はカシガタイラと呼ぶのであつて、両地共に存在し場所を異にするものである。而して原判決認定の如く賢慈が田切須柏ケ平に住所を有するものであるならば、当然選挙人名簿は修正されなければならぬことになるのである。
第二点 原審判決は左の通り審理不盡の点がある。
1、被上告人が選挙人名簿に登載せる上告人賢慈の住所が椿尾字柏平なりとするならば判示による賢慈の現実の居住所田切須柏ケ平とは別個の世帶であることは明かである。
2、上告人等の世帶が同一なりや否を判示せんとするならば、上告人等の夫々の生活と其の生活の本拠を審判せずして同一なりや否やは判断することは出來ない。
原審判決は此点につき審理不盡である。
第三点 原審判決は採証の法則を誤つてゐる。
1、原判決は甲第三乃至第六号証の各記載の一部云々と判示しているが、該甲号証の如何なる部分よりするも以下判示の如き結論は見出し得ない。
2、上告人等の別居別生計の点につき証人の証言を措信し難しとなすは原審の自由の判断なりとするも
甲第三号証縣民税及村民税賦課額決定
(之れは上告人の申告を前提とするものでなく村会の自由の判断によるものである)
甲第四号証国民健康保險料賦課額
(之れも亦上告人の申告を前提とせず村の自由判断によるものである)
甲第十四号証保釈決定地方裁判所の賢慈の制限住所
(之れも上告人の自由ではない)
甲第五証、甲第六号証
何れも西三川村々長が其の資格に於いて上告人等が別世帶別住所として証明している。
公文書である。
甲第七号甲第八号甲第九号甲第十一号甲第十二号甲第十五号証は
何れも公文書であつて上告人等の別住所(別居)なることを明かにし別経済生計なることを窺知し得る。
斯かる明白なる公文書の証拠の存するに不拘原判決はその他に右認定を覆えして原告の右主張事実を認めるに足る証拠は存しないと判示している。
3、原審判決は証人佐々木金太郎同岡崎均雄同岡崎豈輔の各証言を採用して被上告人の主張を是認しているが
(イ) 佐々木金太郎は柏ケ平一三三の家屋に出入して実情に精通せるが如き証言なすも、表札の何人なるやを知らず本件問題の重点事実なる(他の証言書証により賢慈が二十三年夏頃より造作居住せるやに見らる)離家の点は不知を以て答え、而も空家なりと断じ而も二十三年迄は柏ケ平一三三番家によく出入したるも以後はあまり出入せず(本件は二十四年六月廿日現在の実情によつて決すべきものなり)と証言せるに不拘家計は賢慈一人取り仕切ると見ていると推察せる旨を明瞭に証言している。
他面上告人等に有利などと考えらるる点は殆んど不知と答えている。
(ロ) 岡崎豈輔の上告人等が同一生計に属すと考えらるべき証言は悉く証人直接の所見ではない。
(ハ) 岡崎均雄の証言も亦傳聞証拠を根拠に上告人等の世帶が同一なることも決定した旨を述べ要点は証人の直接経驗した事実ではない。
等々の点からむしろ事実認定の資料となし難いものを基礎に判示をしている。
4、前第五項記載の通り甲号証は何れも公文書であり、証人等の証言と矛盾するのであるが公文書が公証力を有することは公けに認められて居るに反し証人等は往々にして僞証することがあることは之れ又屡々聞知する処であつて原審採用の証人等亦此の例に洩れず殆んど虚僞捏造の証言である。
本件並に農地関係訴訟につきては敗戰直後の政情から從來の農民雇人層が殆んど徒党を組んで計画的行動をした実情にある。原審裁判所が此の実則に反する認定をなさむが爲めには何が故に公文書が信憑することが出來ぬか其の理由を明かにし其の根拠を明確にしなければならぬ筈である。然るに只慢然と被上告人の主張を認容し上告人敗訴の判決を下したことは理由不備か実驗則に反する判決である。
5、原審判決が採用せる乙号証について考うるに乙第五号証記載正枝の住所は同人の当時の実際の住所が百三十三番地から約五十間離れた処(所謂離れ家(之は農林省指定自作農創設家屋として建設せられ本宅とは別関係)六百四十八番地に居住)にあつたのであるが單身であつた爲めに学校との連絡の関係から所謂本宅の所在地を記入して届出であつたに過ぎない。而も之れは学校への古い届出であつて最近のものは眞実の様に訂正されてあるのを事務局当局が間違えて旧履歴書によつて証明した事実がある。
乙第六号証以下の賢慈の住所に関するものは弁論調書にも記載ある通り土地所有者の住所として旧來より記載ある儘のものにつき土地買受け希望者より其の記載に從つて記載し、請求した迄のもので直ちに住所の証明として取るべき限りのものでない。他面、甲号証として公正証書による異つた証明があるに不拘原審が乙号証を採用したのは所謂証拠に対する心証の自由の範囲を逸脱し判決其のものが採証の法則をあやまつていることを示すものである。
第四点 原判決は理由不備の不法がある。
上告人等の原審に於ける請求を斥ける爲には上告人等が世帶を同一にしていることを判示する必要がある。世帶とは住所の意でもなく勿論戸籍の意でもなく居住家屋の意でもない。
從つて同一家屋内に居住し同一戸籍にあるものでも生計の根拠と生活の收支が別個である場合は別世帶である。
本件に於ては
1、賢慈と睦雄とが本宅に同居(棟の同、異にさえふれていない)して共に農地を耕作し全收穫から供出していると判定し、残收入の分割如何爾余の收入如何に触れることなくして同一世帶と判示し、
2、正枝に関して本宅に同居せる点のみを判示して、爾余の條件には何等言及論断をしていない。
右理由から破棄さるべき判決である。
上告人等は右の通り上告理由を陳述する。